今年1月15日(土)に実施された大学入学共通テストの英語で、プラスチックのリサイクルに関する記述を読み解く問題が出題された。第6問のリーディングBの「ポスター問題」と言われる設問で、2ページにわたるポスターに書かれた記述を読んで、3つの設問に答えるというもの。
昨今のプラ問題への関心の高まりや今年4月にプラスチック資源循環新法が施行されることから、世相を映した出題だったわけだが、困ったのがこの説明文の記述内容だ。プラスチックのリサイクル適性という観点では事実と異なっており、業界団体である塩ビ工業・環境協会はその誤りを指摘している。「大学入学共通テストは後世に残るため、現状だけでなく次世代にプラスチックに関して偏った知見が拡散、定着するおそれがある」という。
現に、大学受験予備校などは翌日にも解答や和訳を作成し、受験生らに拡散している。今後も過去問題として、受験生がこの問題に記された説明文を参照することになる。あくまで受験問題とはいえ、次世代に誤った知識が定着すれば、今後のリサイクル分別などに影響を与える可能性がある。なお、大学入試センターが共通テストの問題を作成しているが、ポスター問題=創作性のあるものという位置づけであるため、こうした事実誤認を免れる逃げ道にもなっている。
特に、英文の記述の中でやり玉に挙げられたのが、ポリ塩化ビニル(塩ビ、PVC)だ。まず序盤で、2つのグループに分けられたプラスチックのうち、「特定の環境では問題がある可能性がある」と厄介ものの分類に入れられる。その後にも「PETEがPVCで汚染されると、リサイクルできなくなることがある」、「PVCは、知られている中で最もリサイクル性の低いプラスチックと考えられている」と散々な書かれ方をしている。
塩ビは90年代にはダイオキシンの原因物質として疑われたことで、忌避する風潮が高まった。後にダイオキシン生成増には繋がらないことを実証したものの、産業として受けた影響はあまりに大きかった。業界団体は類似する風評被害に対して神経質になっているわけだ。
これまで塩ビも積極的にリサイクルに取り組んできた実績があり、塩ビパイプで2万トン前後、塩ビシートでは排出量の7割強がリサイクルされている。また、塩ビのタイルカーペットでは再生材を使用した製品も多く出回っており、むしろ環境配慮性能の高い製品として認知度は高まりつつある。
この英文問題では、各プラスチックの物性に基づきリサイクルのしやすさ・難しさを感覚的にとらえた記述になっており、必ずしも一般論とは言いがたい。プラスチックはさまざまな状況下における適性を考慮し、リサイクルされている現実があるため、受験問題とはいえ短絡的な記述はこれまでの関係者の努力を無に帰すことにもなりかねない。問題の最後にも記述があったように、受験生がプラスチックのリサイクルに関する知識をさらに深めることで、現実との違いに気づくきっかけになることが望まれるだろう。
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