輸出時に規制対象となる「汚れた廃プラ」の判断基準などを定めた改正バーゼル法省令が今年1月から施行された。該当するプラは事前承認が必要になり、税関での水際検査も強化されている。今年の廃プラ輸出量は半減しており、年間では40万トン前後になる見通しだ。該当品の輸出承認に伴うコストや期間はどのくらいか?また規制されたプラは国内で循環しているのか?環境省廃棄物規制課の山王静香課長補佐に聞いた。
「日本環境衛生センターにおいて、輸出するものがバーゼル法の対象かどうかの事前相談を受け付けていますが、昨年10月に改正省令を公表してから、12月までの間は非常に相談件数が伸びました。バーゼルの規制対象に該当すると判断されたものは審査が必要になりますので、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出の承認の申請をしてもらっています」
「承認は1年間有効なので、1年間に輸出する想定トン数を承認します。例えば1年間で120トンだったら、ひと月あたり10トンずつでもいいし、半年で60トンずつでもいい。1年間の枠として、毎年承認するイメージです」
「環境省は日本から輸出されたものが、相手国で適正にリサイクルをされるのか確認しなければなりません。そのためにどこに輸出されるのかはもちろん、相手国でのリサイクル設備や工程も確認します。日本の環境基準に照らして問題なく、同レベルでリサイクルされて環境に影響を与えないことが確認できれば、相手国に通告します。その後、相手国が通告に同意して初めて外為法上の輸出承認になります。ただし、どういう基準で同意をするかは相手国の方針となります」
「バーゼル条約に基づく輸出入の件数は年に1回公表していて、2020年分を今年も夏頃公表します」
「大きく言うと2つあります。1つが塩化ビニール(塩ビ)です。今回、ハロゲン化されていない(=塩化されていない)プラスチックについては非該当とバーゼル条約に明記されているので、ハロゲン化されているものは該当することとなり、塩ビは条約上の規制対象となります。判断基準で示したような汚れや異物の混入は関係ありません」
「もう1つは、複数種類のプラスチックが混ざったものです。リサイクル工程の中で、いろいろなところから集まって来るもの、あるいは家電などで処理をしている工程でどうしても単一のプラスチック樹脂にならないものが多いですね」
「フィルムに限らず、複数の種類のプラスチック樹脂が混合していれば規制対象になります。フィルムは、製品の製造工程から排出されるものであれば規制対象外と判断される可能性があります」
「通告に同意するかどうかは相手国次第ですが、申請をすればその可能性はあります。ただし、申請コストがかかるということで、事業者が諦めるケースはあると思います。申請のためには、担当者がマニュアルをちゃんと読み込み、相手国から書類を取り寄せ、間違いがないように確認し、社内決済も取らないといけません。そういうプロセスは事業規模によっては大きな負担になります」
「環境省とか経産省の審査の中で、書類を揃えていただくのに数カ月かかることが通常です。特に今回は改正後初めての手続きになりますので、処理工程を確認しながら書類を求めています。そこから先、今度は相手国に通告をして、相手国から同意を得ないといけませんが、そこでどのくらいかかるのかは私たちも分かりません」
「まさにそれが今回のバーゼル条約改正の本質です。相手国で適切に処理が行われていないのではないかという疑念があって、改正の議論が始まりました。バーゼル条約は主に有害な廃棄物を規制していますが、プラスチックは有毒ということはあまりありません。ただ、その処理の過程で不適切に取り扱われて、環境に悪影響を及ぼすことがあるので、規制対象にその他の廃棄物という枠で入ることになりました。そうすると輸出業者が相手国での処理工程を確認するのは当然のことで、そのプロセスが分からないと輸出は認められません」
「税関にも当然、プラスチックが新しく規制対象になったことを伝えています。全てのコンテナを開けることはできないですが、できる限りチェックしてもらっています。今年は過渡期ですので、いろいろなことが現場で起きると想定されます」
「プラスチックについては相手国からシップバック通報はきていません」
「日本の判断基準で規制対象外として出ていったものが、仮に相手国の判断で引っかかった場合、日本のバーゼル法違反にはなりませんが、相手国の法律違反にはなります」
「輸出が禁止されるということはないですが、税関も一回戻って来たものがどこの国のどの基準に引っかかったのか認知すれば、同じものをまた次に輸出しようとしたときは指摘をすることもあると思います」
「汚れがついているものをコンテナの奥に詰めて相手国に輸出すればバーゼル法違反になります。バーゼル法上、規制対象となっているものが輸出されているので、本来その分は相手国の同意が必要で、同意がない部分についてはバーゼル法違反の輸出になります」
「バーゼル法は輸出業の許可を与える仕組みではないので、輸出をできなくするという処分はありません。ただし、バーゼル法違反の輸出の場合は、外為法の違反になる可能性もあり、二重で罰金が科される可能性もあります」
「有価物か廃棄物かは廃棄物処理法上の話であって、バーゼル法上では関係がありません。今回、該非判断基準で規制対象になったプラスチックは、日本で扱う分には有価物として回っている可能性があります。ちょっとややこしいですが、日本でいう廃棄物の定義とバーゼルの規制対象物はずれているので、着後有価かどうかは、まったく関係がありません」
「2020年の廃プラの輸出量は83万トンでしたが、このうちどのくらいの量が新たに規制対象として引っかかるのは、私たちも分かりません。実際に貿易統計の2021年の1〜2月の輸出量を見てみると、昨年の同時期と比べて半減しています。引っかかったのが半分、引っかからなかったのは残り半分ということが推測できます。このままの傾向が続けば、年間ベースで40万トンくらいは輸出されるのでしょう」
「ただし、引っかかったものの中には、今輸出申請をしていて承認を待っているものもありますし、また、なんとかきれいに選別をして、輸出を継続しようというものもあるかもしれません。問題は申請したけど承認が得られなかったものと、そもそも輸出を諦めたものです。それらは国内で適正に処理されなければなりません。これが適切に処理されず、不法投棄などにつながると大きな問題になります」
「環境省もリサイクル設備に補助金を出して国内のリサイクル体制の整備を図っていますので、国内循環ができている可能性はあります。また、輸出ができなくなったことが原因の不法投棄が起きているということは確認されていません」
「そうです。私たちもこの判断基準を作ったときに可能な限り各国とのずれがないように考慮はしました。各国のプラスチックに係る独自規制を調べてリストにしているので、網羅的なわけではないですが、そういうものを参考にしています。それでもやはり違いはあります」
「昨年、バーゼル法省令の施行1カ月前のタイミングでアジアの国々を集めてワークショップを開き、その中で各国の規制対象物の認識をヒアリングしました。その結果、やはり一定のばらついた回答が出てきました。そういうばらつきがあるという情報も提供しています」
「当然です。例えばフィリピンは家電プラの輸入を規制しています。家電に含まれている難燃剤の有害性を評価しているからです。バーゼル条約をどのように解釈し施行するかは、その国に判断する権限があります」
「何を規制対象にするかというディフィニション(定義づけ)について、各国の政策判断がある中で、これは規制対象、これは対象外という国際的な統一スタンダードを作るのはかなり難しいと思います」
「現在バーゼル条約の専門家会合で国際ガイドラインが議論されていますが、ガイドラインの内容はディフィニションではなくプラスチックの環境上適正な処理方法についてです。プラスチックの適正な処理に関する基礎情報を整理して、主に途上国に提供しようとしています」
「現在検討されているガイドラインは、環境上適正な処理はこういうものですよと紹介するものです。輸出入の対象が何かという話ではなく、国内処理の工程に関係するガイドラインなので、ちょっと役割が違うのです」
「このガイドラインは、プラスチックの環境上適正な処理を紹介するものなので、各国の輸入規制の判断にはあまり影響しないと思います。中国や東南アジアは、既にそのような基本的な情報は持った上で、プラスチックを国外から輸入するのではなく、国内循環を進めていくために輸入規制を講じるというポリシーなのでちょっと違います。今後各国の規制が鎖国的になっていくのかどうかは、私には分かりません。歴史的に見ると規制を強めたり弱めたりを繰り返しています。将来的なことは分からないですが、いずれにしても国内での資源循環ができるよう、体制を整備していくことが重要だと思います」
(21年4月20日環境省にて収録)
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