廃プラを取り巻く環境が激しく変化している。中国の輸入規制が端緒となって、国内市場に廃プラが回帰したものの、各地の中間処理施設で溢れ返り、処理能力は限界に近い。2021年からはバーゼル条約が改正され、さらに海外市場に向けた輸出のハードルが高まる。自治体の焼却施設での廃プラ受入れに現実味はあるのか?またマテリアルリサイクルや熱回収(サーマルリサイクル)の可能性も広がるのか?新たな廃プラ対策に取り組む環境省廃棄物規制課の成田浩司課長に聞いた。(聞き手は本願雅史)
「廃プラの中間処理施設の逼迫を受けて、昨年8月にアンケート調査を実施し10月に公表した。今年3月にもアンケート調査を再び実施したところ、廃プラの保管量が依然増えており、処理費用も値上がりしているという結果だった。これらの結果を踏まえて、5月20日に通知を発出した」
「民間から出たものは民間で処理するのが大原則。だが、処理施設の設置手続きは、丁寧にやっていく必要がある。焼却場の新設はすぐにできない。新規計画については増えているというより、既存の計画がこれから実現していくものと考えている。施設整備の必要性と適正処理の両面を考え、(許可権者は)アクセルとブレーキを丁寧に判断しないといけない」
「一部の自治体においては処理施設に余力があると聞いている。『廃プラ処理の円滑化』に関する通知の中で市町村の処理施設を使うという話だけが注目された。だが9項目あって8番目に記したもの。緊急避難措置として、余力がある自治体には積極的に検討頂きたいという主旨である。一般紙の報道を含めて、その話ばかりが取り上げられたのは正直心外だった」
「自治体が産廃の廃プラを受け入れる場合には必要な処理料金を取って頂きたい。例えば産廃業者による廃プラ類の処理料金と同等の水準とすること等を助言している。大前提は民間で出てくるものは民間で処理すること。『焼却場で産廃を受け入れる自治体には財政支援する』という報道もあったが、財政支援など我々の頭の片隅にもない」
「そもそも一廃の処理施設は、自治体が住民にお願いし、つくらせてもらった施設がほとんどだ。このため産廃受入れにあたって、改めて住民の合意形成をすることになる。また処理料金を徴収するので、手数料条例を定めないといけない。つまり議会を通す必要がでてくる。難しい手順を踏むので容易にできない。いくつかの自治体から質問は受けているが、現時点で受入れを決めたという話は聞いていない」
「我々の調査では、大都市圏では処理能力が逼迫しているが、地方では余力がある状況。まだら模様で、余裕のある地方にもっていければいいが、大きな2つの障害がある。その1つが価格の問題。遠くに持っていけば処理ができるが、排出事業者が物流コストを含めて、きっちり処理コストを払うように指導してもらわないといけない」
「もう1つの大きな障害は、自治体が独自に実施している県外廃棄物の流入規制。これは独自の条例や要綱で、届出だけで済むような自治体もあるが、一定のリサイクル率を満たさないと受け入れない自治体もある。今回は逼迫した状況なので、流入規制の緩和・廃止、これらが困難な場合には手続の合理化、迅速化というところまで踏み込んだ。地方で余力があるのに県外廃棄物の流入規制があって持って行けない。その障害を除いて欲しいというのが、今回の通知で最も言いたかったことである」
「産廃行政の原点の1つには、香川県豊島や岩手・青森県境の不法投棄に代表されるような、国費や地方税を含めて何百億円を払って後始末しなければならなかった例がある。不法投棄された廃棄物の大部分が県外廃棄物だった。自治体からみれば、域内で発生したものならまだしも、県外からたくさんの廃棄物を受け入れ不法投棄されたら、たまったものでない。気持ちは分からなくもないが産業活動は全国でやるもの。例えば愛知県で造られた自動車は、愛知県だけでなく、全国で販売されている。同じように、産業から出てくる廃棄物は全国で処理してもらうのが筋である」
「環境省はあくまで自治体にお願いする立場。民間業者もどこでもいいのではなく、ちゃんとした業者に処理してもらいたい。産廃業者の中間処理施設の保管量を増やす措置も一連の流れで出てきた。保管量の基準は、処理能力の14日分が上限だが、優良産廃処理業者に限って28日分に引き上げる。廃棄物というのは特殊な商品で、モノを受け取ってお金(処理料金)をもらう。悪質な業者が他よりも安い価格で溜め込んで、処理もせずに逃げてしまえばそれで儲かる。だから原則14日分という保管量の規制を設けている。優良産廃処理業者として認定されているのは1,100社ほど。ただし、廃プラを扱っているのは数百社とみている。優良業者は財務諸表の公開や過去に行政処分を受けていないなど一定の要件を満たしている。比較的規模が大きく産廃処理業を長く続けていく覚悟のある会社も多い。そういう人達にできる限りものを集めて、適正に処理してもらいたい」
「廃プラの中間処理というのは、できる限り高度にリサイクルしてもらうことが望ましい。この施設の整備に時間とコストがかかる。そのため93億円の補助金をマテリアルリサイクルの施設整備に活用してもらう。他方、焼却した上で熱回収という手法もあるが、こっちの予算は20億円である。ともにエネルギー対策特別会計の予算なので、いかにエネルギー起源のCO2を減らすかが主眼にある。一般的にマテリアルリサイクルすればCO2があまり出ないが、熱回収だとどうしてもCO2が出る。決して熱回収を軽視するわけではないが、エネルギー特会上優先すべきはマテリアルリサイクルで助成額も上回っている」
「RPFの販路をどうするかは自助努力でやって頂くところが大きい。大量の廃プラを処理できるので期待している面はあり、経産省と一緒に需要の拡大策については検討している。だが最終的に作られる製品について、お客様がどういうものを欲していて、そのために何をつくるかはあくまで民民の関係。この点で役所のやれることは限られているが、他方、RPFは廃棄物由来であっても、JIS規格に則ったものは、もはや廃棄物でなく、燃料である。このことは、我々も強く言っていきたい」
「助燃材としての利用であれば可能だろう。JIS規格に則った品質がしっかりしたものであれば、RPFは燃料として購入することになる。この場合、手数料を取るわけでなく、新たな条例を定める必要はないと思われる」
「ちらほらと聞いている。有価物でも何等かの加工によって残渣が出れば、廃棄物として適切に処理するよう自治体がきちんと指導すべきである。廃棄物かどうかは総合判断説に基づき判断するので、仮に有価で買ってきたとしても、それだけで廃棄物でないと言い切れるのかどうか。ぞんざいに扱われた場合、廃棄物となる可能性がある。お金を払って買って、それで商品を作るのであれば、原料として大切に扱わなければならない。本来、一般的にそういうものが商品として流通しているのかなど、客観的な状況をみて判断する必要がある。偽装有価というケースはいくらでもある。火災防止の観点からは、消防と連携して立ち入り検査することもできる。火災が頻発していることから、今回の通知でも防止対策を挙げている」
「これからバーゼル条約の対象となるもの、ならないものを決めていく。日本から輸出先の東南アジアや中国の規制の状況をみながら考えていく。あまり緩いと簡単に出ていくし、厳しすぎるときれいなものも輸出できなくなる。そのあたりのバランスをみながら考えていきたい。ただ、対象になったからといって輸出禁止になるわけではない。あくまで通告同意制度の対象になるということ。つまり『輸出していいですか?』と輸入国側政府に対して通告し、『いいですよ』と同意してもらえれば出せる。最近東南アジアが規制を強めているので、バーゼル条約というより輸入国政府の考え方で出しづらくなることはあると思う。条文自体は抽象的で、それより厳しい規制が妨げられているわけではない。ただ同じ条文で解釈がばらばらだと困るので、中長期的には国際的なガイドラインをつくるような動きが出てくると思う」
「日本政府として基準なり見解をまず出すために、国内での定義については、国内外の情報を収集した上で決める。委員会のような組織を立ち上げる可能性もあるが、今のところあまり考えていない。最終的には省令改正を行うことになる。ただ、日本と同じ基準を各国政府が使ってくれるかというと、おそらく違う。国際的なガイドラインづくりは時間がかかることが想定される。今回のバーゼル条約改正にしても、オブザーバーの米国を除いて、規制をかける方向性は締約国で共有されていたが、対象範囲をどうするかは揉めに揉めた。最終日の数時間前までまともに合意できていなかったと聞いている。そのため抽象的な条文になっている。これから具体的な範囲を収斂させていくことが必要だ」
(2019年7月25日収録)
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