2019年6月末に開かれるG20大阪サミットでも、日本が示す「プラスチック資源循環戦略」が議題の一つになる。中国による輸入禁止が端緒となって各国で規制の機運も高まった。バーゼル条約改正が採択され、2021年以降は2国間の同意なくして、「汚れた廃プラ」の輸出が不可能になる。今後、中国ショックで行き場を失った廃プラはどこへ向かうのか?1年半の猶予の中で、国内処理を進める有効な手立てはあるのか?東京と千葉の2ヵ所で廃プラの中間処理を手掛ける東港金属(東京都大田区京浜島2ー20ー4)を訪れ、同社の福田隆代表取締役に聞いた。
中国が廃プラの輸入を禁止した影響は大きい。昨年、一般社団法人東京都産業資源循環協会が産廃業者に緊急アンケートを実施し、会員向け機関誌「とうきょうさんぱい」337号の中で紹介している。産廃業者への影響として「搬入制限」や「搬入の待ち時間」、「売却費の値下がり」、「最終処分料金の値上がり」を挙げており、対応策として「排出事業者へ5~10%以上の値上げを要請中」といった声が目立った。
産廃の中間処理施設は処理能力の限界ギリギリだ。各地で荷止めが起き、荷下ろしに最長10時間ほども待つケースが出てきている。待機車両が列をなす中、トラック1台分の積み荷を構内で構内を片付けるのに20~30分かかり、受入れに長時間を要するからだ。
既に廃プラの産廃処理費の相場も中国ショックの前に比べ、4割近く上昇した。東京都内では平均的に50~55円/キロ。以前は35~40円/キロだったので、約2年で15円上昇した。新規取引では70円/キロ~というところもあるようだ。もともと産廃処理単価は大きな変動がなかった。2013年ごろに一度変動があった程度で、20年近く無風状態だったとされる。中国向け輸出が定着したことで、排出量と処理量のバランスがとれていた面もあるからだろう。
中国ショックの後、廃プラの産廃処理価格が急上昇し、ようやく天井感が現れていたが、今年4月にバーゼル条約改正案の汚れた廃プラの原則輸出禁止が決まったことで、新たな処理先を模索する動きが強まる。新バーゼル条約を発効する2021年に向け、再び廃プラの産廃処理費は上がっていくだろう。
なお、値上げ幅や搬入制限も広がっているものの、産廃業者によって対応も様々で、こうした状況においても処理費を据え置いたり、安定量の搬入を継続する処理業者も残る。ただ同時に残渣の受け皿である焼却や埋立てコストが上がっているので、こうした業者の収益性はかなり悪化しているとみられる。また前述のように搬入制限はなくとも、荷下ろし時の長時間待機は避けられなくなっている。
廃プラにもグレードがある。選別が比較的行き届き、単一品種のものはまず①マテリアルリサイクルに回る。ミックス品であっても組成が明らかなものは、②固形燃料であるRPF原料に優先利用される。他にも③非鉄精錬業界や④セメント業界で、還元剤(石炭の代替)として使用される。②~④がサーマルリサイクルと呼ばれるが、炉を保つために塩ビ類は除くなどといった受入れ基準も厳しい。
最後に品質の劣るミックス系のものが⑤埋立処分や⑥焼却処分に回る。廃プラが行き場を失ってから、なるべく品質をいいものという優先利用が進んだ。これが玉突きとなって、各段階にある中間処理業者のヤードが廃プラで溢れ返り、埋立場や焼却施設にも荷が殺到している状況である。
今、産廃系の廃プラ中間処理業者は、火災の危険に怯えつつ運営しているとさえいわれる。もともと原油由来の素材で、積み上がった未処理の廃プラは一旦燃えると延焼も早い。事実、各地の処理施設で火災が頻発している。産廃の中間処理施設では、2月に埼玉県三郷市、4月に東京都足立区、5月に長野県松本市で火災が発生。茨城県常総市では5月に雑品置き場で家電から出火し、5日以上に渡って燃え続けた。
既に中間処理場で産廃系の廃プラが行き場を失う中、中国の禁輸措置やバーゼル条約改正でこれまで日本から海外に輸出されていた廃プラのどのくらいが国内に還流するのか?
廃プラの産廃処理を手掛ける東港金属の福田隆代表取締役社長の試算に基づくと、2018年に輸出された廃プラ100万トンのうち30万トンが使い捨てプラスチックである。この中には家電パーツに使われるプラスチック、いわゆる家電プラも含まれる。残る70万トンは主に工場由来品の単一品種で「汚れた廃プラ」に該当せず、輸出継続の可能性も残されている。
一方、2018年に雑品100万トンが中国向けに輸出されたが、今年から輸入ライセンスが発行されず、事実上、輸出が止まった。雑品とはパソコンなど使用済電子機器やその他金属スクラップの混合物のことである。これらを国内でシュレッダーにかけると、廃プラ中心のスクラップダストが発生する。この数量が概ね45万トンとみられる。
つまり30万トン+45万トン=75万トンが国内還流の下限量になってくる。規制がより厳しいものになれば、最大で210万トンも処理量が増える可能性がある。つまり75万~210万トンの国内発生増が想定されている。
果たして行き場を失った産廃系の廃プラを国内で処理する手立てはあるのか?東港金属でも昨年末、処理能力の限界に近い廃プラが積み上がっていた。そこで、今年1月に1ヵ月間の荷止めを強行実施した。それによって在庫が一挙に解消できたが、顧客の荷の受入を全停止するなどと前代未聞のこと。同社としても半信半疑での措置だったが、「そのぐらいドラスティックにやらないと状況を打開するのが難しい」と同社の福田隆社長は語る。引き続き各持込み業者の受入量の制限を継続している。
関東圏は日本の産廃系の廃プラ発生量の約6割近くが集中するが、量が極めて多く、そして品質も劣るという特色がある。同社は、東京と千葉に処理施設が1ヵ所ずつ運営し、好アクセスで都心に近い東京の本社工場と、細かい選別と大規模なシュレッダーを活かした千葉工場で、役割を分けてきた。廃プラは東京で月間2,500トン、千葉で月間2,000トンの合わせて計4,500トンの受入れ量がある。以前は有価物として月間200トンほど輸出していたが、現在はゼロ。
東京工場は大田区の京浜島に立地し、約2,000坪の広さ。非鉄金属や産廃など多品目を受け入れる。案内してくれた工場長はイラン人のラハモンさん。日本に移住して10数年のベテランである。荷受けした廃プラはまず台貫で重量を測る。同時に上部に取り付けた放射能センサーでも測定し、150ナノシーベルト以上だとブザーが鳴り、300ナノシーベルト以上であれば受入れを拒否する。
廃プラの処理の方法は、①10センチほどに粗破砕、②バイオセパレータでリサイクル品と焼却向けに選別、③マグネットで金属を分けるという流れである。ベール後の廃プラは、主に次の処理先によって4グレードに分けている。
ベール品の表面にS、J、T、Bの4種がスプレー書きで記される。Sというのは焼却炉向けで金属が入っていないもの。Jは破砕だけで、バリオセパレータをかけていない。つまり金属が含まれていても問題ない処理先に納めるものである。破砕サイズもSやTより大きい。TはSに近く、石ころ、金属、危険物を除去したもので、BはRPF向けで組成が明確なものをベールしたものである。
ちなみに、東港金属の祖業は非鉄金属スクラップのリサイクル。1902年の創業で117年の歴史がある老舗だ。産廃の廃プラを取り扱い始めたのが1994年から。非鉄業界であれば、アルミなど類似したアイテムを増やすのが王道だが、産廃に進出したのは「魚屋さんが突然、洋服を売り出したようなもの」と福田社長は振り返る。もっとも事業拡大の読みはあたった。この頃からオフィス系の軟質プラが大量に発生したが、マテリアルリサイクルに向かず、量を捌く中間処理施設が求められた。同社の京浜島工場で破砕処理する機能を活かし、受入れ数量を伸ばしたのである。
同社の場合、廃プラ処理を輸出に依存していたわけではないが、福田社長は、今後も行き場を失って処理先を探す動きは続くとみる。今のところ即効性のある対策はないからだ。リサイクル施設や焼却施設、埋立て処分場といった新規プロジェクトも現れているが、開設までに時間を要し、直近~3年後の処理能力が圧倒的に不足するとみる。
5月に環境省は各自治体の清掃工場で産廃の廃プラ処理を求めたが、いわば「禁じ手」に近い手法で、どこまで各自治体の賛同が得られるかも未知数である。
各処理ルートの受入能力不足はすぐには解消せず、廃プラの滞留が喉元まで来た状況が続きそうだ。
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