【経済産業省】
モバイル充電器・スマホ・電子タバコのリサイクル義務化
2026年4月から施行予定、各地で火災頻発で対策強化へ FREE

 経済産業省は8月12日、産業構造審議会イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会で、モバイルバッテリー・携帯電話・加熱式たばこの3品目の回収およびリサイクルを製造または販売する事業者に義務化する案を示した。近年、内蔵されたリチウム蓄電池が原因で発火事故が多発し、安全回収と資源循環の両立が求められている。この3品目は「指定再資源化製品」と呼ばれ、パブリックコメントを経て、10月にも政令を公布し、2026年4月に施行の改正資源有効利用促進法によって適用される。

 今回の改正で対象となるのは、モバイルバッテリーを1,000台以上、携帯電話を1万台以上、電子たばこを30万台以上、それぞれ年間に生産または販売する事業者。回収とともに、リサイクルを義務付ける。取り組みが十分でない場合には、勧告・命令を受けることもある。今後、パブリックコメントを実施して、10月に政令を公布、2026年4月から施行を予定している。

 この義務化案に先立って、7月30日に同小委員会のワーキンググループを開催。リチウム蓄電池の回収と再資源化について、各団体からリサイクル事業に関する課題や対策の整理が行われた。ワーキングに出席したのは、事務局(経産省 GXグループ 資源循環経済課と環境省 環境再生・資源循環局資源循環課)と、5つの一般社団法人(JBRC、情報通信ネットワーク産業協会/電気通信事業者協会、日本たばこ協会、日本電機工業会)である。

リチウム蓄電池の回収・再資源化における課題と対策

 事務局によると、廃棄物処理を行う全国の自治体における小型リチウム蓄電池起因の発煙・発火事故の発生件数は2万1,751件(2023年度)。被害総額は約96億円(2021年度)に上る。過去には大規模な火災によってリサイクル施設の設備が損傷し、約1年半にわたり稼働がストップするという大きな事故も起きている。

 その一方で、回収率はまだまだ低い状況だという。現行の資源有効利用促進法により、リチウム蓄電池を内蔵する製品のメーカーには電池の回収と再資源化が義務付けられてはいるものの、①メーカー各社の実施状況をモニタリングする仕組みがない、②広域エリアでの回収には自治体の許可が必要で回収スキームを構築しにくい、③リチウム蓄電池を取り外せない一体型製品(回収・再資源化の義務対象外)が増加している、という3つの課題があるためだ。

 事務局ではこれらの課題を解決し、リチウム蓄電池の回収率を高めるため、意欲的な回収目標を設定すると発表。国の認定を受けたメーカーには今後「廃棄物処理法の特例」を適用し、業の許可がなくとも回収を進められるようにしていくという。また、現行法では回収義務の対象とならない前述の「③一体型製品」についても、政令により義務の対象へ追加する予定だ。

 合わせて、今後は関連事業者へのヒアリングを実施した上で、メーカーおよび輸入販売業者が自主回収・再資源化を促進することが特に必要と政令で定められた製品を指す「指定再資源化製品」の対象を広げていく。実現すれば現在のパソコン、密閉形蓄電池(密閉形鉛蓄電池、密閉形アルカリ蓄電池、リチウム蓄電池)に加え、電源装置、携帯電話用装置、加熱式たばこデバイスも、指定再資源化製品として回収と再資源化が義務付けられるようになる。

主に3つの課題によって、回収率は低いままだ

JBRCによるモバイルバッテリーのリサイクル事業

 続いて(一社)JBRCによる使用済みモバイルバッテリー(小型充電式電池、通信機器やOA機器、家電、日用品に使われるリチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニカド電池を含む)のリサイクル事業について見ていきたい。

 JBRCは法人194社により2004年4月に設立。同年に産業廃棄物の広域認定を取得し、2017年からモバイルバッテリーの本格的な回収と再資源化事業をスタートした。翌2018年には一般廃棄物の広域認定も取得し、現在の会員企業数はモバイルバッテリーおよび使用製品のメーカー、販売事業者、輸入事業者など401社に上る。

 モバイルバッテリーの回収元は約7,000の協力店、約9,000の事業者と、約1,300の自治体および関連施設だ。協力店・事業者から排出された分は産業廃棄物として、自治体・関連施設からの排出分は一般廃棄物として提携する収集業者が回収・運搬する。その上でリサイクラー5社による選別、解体と、熱処理もしくは分解・濃縮を経て、ニカド電池やステンレス製品、耐熱鋼などの特殊鋼、銅製品へとリサイクルされる。

 2024年度の回収量は約1,382t。内訳としてリチウムイオン電池が約510t、ニッケル水素電池が約270t、ニカド電池が約611tとなる。近年はニカド電池の回収量が減少傾向にある一方、リチウムイオン電池の占める割合が増えているという。

 また、JBRCはモバイルバッテリーを回収する際の安全対策と、事業者、消費者への啓蒙活動にも力を入れてきた。当初は、段ボール箱を使って使用済みモバイルバッテリーを回収していたが、バッテリーの発熱により焦げが生じることがあったため、金属缶による回収に移行。その後、2020年からは金属缶の内側に樹脂容器を入れることでバッテリーがショートする危険性を抑え、2025年度からはさらに安全性を高めるため、難燃性の樹脂容器への切り替えを進めている。

 一方、啓蒙活動としては展示会への出展や人気タレントとのコラボイベント開催、ラジオCM放映を展開。このほか、安全回収ハンドブックの配布やYouTube動画の配信を通じて、使用済みモバイルバッテリーの排出方法について注意喚起をしている。

約400社に及ぶJBRCの会員企業が、多彩な協力店、事業者、自治体からモバイルバッテリーを回収している

モバイル・リサイクル・ネットワークの活動

 続いて携帯電話の回収・再資源化の取り組みを紹介したい。通信機器メーカーや通信事業者を中心に構成される(一社)情報通信ネットワーク産業協会と(一社)電気通信事業者協会は、携帯電話の回収・再資源化を強化する活動「モバイル・リサイクル・ネットワーク(MRN)」を、2001年4月から開始している。現在は大手携帯キャリア4社、家電量販店チェーンのエディオンと連携し、携帯電話を取り扱う全国約8,500店舗のショップを窓口として端末の回収と再資源化に取り組んでいる。

 回収する端末に年式や利用年数の制限はなく、本体と合わせてバッテリー、充電器も対象となる。ユーザーから回収したこれらの機器は、個人情報やデータの漏洩対策を施した上でリサイクラーのもとへ運搬。分解、破砕、選別、精錬の工程を経て、金、銀、銅、パラジウムといった希少金属を含めて再資源化される。

 MRNでは運用を開始した2001年から2023年までの間に、累計約1億5,000万台の使用済み携帯電話を回収してきた。ただし、直近の実績に目を向けると2023年度の回収台数は363万台。対前年比では約15万2,000台の増加となったものの、近年は端末の高機能化に伴うバックアップ用としての保管や中古販売店への持ち込みが一般的となり、回収台数、回収率ともに横ばいの状態が続いているという。

 また、MRNが行っている携帯電話ユーザーへのリサイクルに関する意識調査でも、MRNの回収・再資源化事業に対する認知度は44%にとどまっており、使用済み携帯端末の処分方法が分からないユーザーも多いという。MRNではこうした課題に対処し、携帯電話の回収・再資源化をさらに推進していくため、Webサイトでの情報発信や店頭でのポスター掲示、端末のカタログや説明書へ活動内容を紹介する記事を掲載するなどして、積極的にアピールを続けている。

近年は、使用済み端末の回収台数、回収率ともに横ばいの状態が続いている

日本たばこ協会による加熱式たばこデバイスのリサイクル

 リチウム蓄電池は、たばこを加熱して蒸気を発生させる器具「加熱式たばこのデバイス」にも使われている。加熱式たばこのシェアは年々拡大傾向にあり、現在約1,500万人と言われる国内の喫煙者のうち、約4割をユーザーが占めている。そうしたなか、(一社)日本たばこ協会(TIOJ)では、協会の正会員である日本たばこ産業㈱、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン(同)とともに、2020年から加熱式たばこデバイスの自主回収とリサイクルを進めてきた。

 リサイクルの仕組みは、たばこ業界独特の流通網を活用したものだ。まず全国約1,100店舗のたばこ販売店がユーザーから不要になった加熱式たばこデバイスを無償で引き取る。販売店が引き取ったデバイスはTIOJが有償で買い取り、国内の流通シェア99%のたばこ納品業者の帰便に載せてリサイクラーのもとへ運搬して売却。リサイクラーはデバイスを分解・破砕せず、一体のまま熱処理をして再資源化するという流れになる。2023年からは同じくTIOJの正会員であるフィリップモリスジャパン(同)も全国の直営販売店舗で同様のリサイクルプログラムを実施している。

 TIOJによると、こうした既存の流通網を活用した回収と再資源化には、動静脈物流の統合による経済合理性の担保というメリットがある反面、経営者の高齢化に伴うたばこ販売店の減少による回収不足問題や、販売店にデバイスを持ち込む手間がかかるといった課題もある。TIOJでは今後のさらなる取り組みとして、加熱式たばこユーザーへの廃棄方法についての周知活動や、自治体からの直接回収も視野に入れた正会員3社による回収スキームの構築を進めていく方針だ。

たばこ業界独特の流通網を活用し、加熱式たばこの回収に努めている

充電式家電製品の密閉形蓄電池のリサイクル

 最後は、家電分野における蓄電池のリサイクルについて見ていきたい。掃除機や電気カミソリに使われている密閉形蓄電池は、先述したJBRCが全国の協力店や事業者、自治体とその関連施設を拠点として回収、再資源化を行っている。

 電機メーカーを中心とした正会員184社で構成される(一社)日本電機工業会では、この現行のスキームを活用し、さらに回収と再資源化を推進するため、①製品に密閉形蓄電池が使用されていることの表示、②製品から密閉形蓄電池を取り外しやすい構造の採用、③密閉形蓄電池の適切な排出方法の周知強化、という3つの観点を重視し、会員企業と連携して独自の啓発活動を続けてきた。

 ①については、(一財)家電製品協会による「家電製品の小型二次電池使用機器の表示ガイドライン」に沿って、電池識別マークを家電製品に表示。例えば掃除機の場合、本体に着脱式のリチウムイオン蓄電池を使用している旨と、蓄電池のリサイクルを促す文面を記載している。

 ②については、電気カミソリなど防水性の観点から密封構造を採用している製品の場合、ニッパーなど市販の工具で蓄電池を取り外せるように設計。そのほかの製品に関しては、一般の消費者が工具を使わずに蓄電池を交換できるよう、数年前から着脱式バッテリー方式の製品ラインナップを拡充させてきた。

 ③に関しては、環境省による調査の結果から、充電式家電製品の多くに密閉形蓄電池が使われていることをそもそも認識していない層が多いことが課題だと捉えている。今後は電池名称の表記や廃棄の際の電池の取り外し、リサイクルへの協力を訴求していく方針だ。こうした啓蒙・情報発信については、日本電機工業会の会員である主要電機メーカーSNSアカウントの活用、DMといったプッシュ型の情報発信に加え、自治体との連携も模索しているという。

家電製品本体には、必ず「電池識別マーク」を表示

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